パンからインクができるまで
こんにちは、紫です。
先日私が在籍している大学での10日間に及ぶ卒業展示が終わりました。ご来場いただいた皆様ありがとうございました。
つきましてはせっかくなので、今回は私の展示した作品についてつらつらと書き残しておこうと思います。 それではやっていきます。
なに作ったか
卒業制作では「パンからできたインク」を作りました。学科の共通テーマである「交換」から、「食べるものと書くものの交換」を着想し、制作に落とし込みました。
実際に、設置してある試筆コーナーでお試しいただくことで「素材の特徴や差異を体験できる」展示としています。
主に以下の物を制作しました。
- パン製インク*6点
- 焦げたパンの粉末
- 試し書き用紙・ポストカード
- A1グラフィック
- キャプション等
- 展示台本体
展示台込みで制作を作ったため、(メインの制作物の割に)全体で見ると非常に時間と労力を費やした制作になりました。そのため、難しいことをやったというよりは、時間をかけて初めてのことをたくさんやった制作でした。
なに考えてたか
情報デザインか、グラフィックデザインか。
今回の展示を迎えるにあたって、情報デザイン学科のグラフィック領域の展示ということで、グラフィック表現を主体とした制作にしようと考えていました。これは既存のモノを分析・分解し、展示として再構成するような方法では無く、0から自分のアイデアを表現に落とし込む制作にしたいという思いによるものでした。また、「人が使うモノやその誘導のデザイン」がしたいと考えていたので、「生活の中で身近に感じられて、体験的な要素を持った展示」を作ろうと思っていました。
さらに、今回はいままで苦手にしてきたことを詰め込んだ制作にするつもりで、以下の決まりの下で制作をはじめました。
決めたこと
- 自分が苦手にしてきたことをやる。→社会性に直接言及しない。立体的な作品をつくる。
- アイデア・企画だけで完結しない作品にする。→モノの訴求力とグラフィックデザインで魅せる。
- ギリギリに完成しない。→修正点を直す時間と、改良する時間を確保する。
- 最新の状態を常に展示しておく。→すぐにレビューを貰える環境をつくる。脳内で完結せずにすぐ試す。
何の役に立つのか
誤解を恐れずに書くと、今の社会をより良くすることは大切ですが、それを直接的に伝えるような作品にする必要は無いと考えました。そのため、今回の作品では社会問題を取り扱うのではなく、より生活が豊かになるような提案にしたいと思いました。
もちろん社会性を加味するかどうかはケースバイケースですが、今回の制作は芸術作品であるという点に立ち返り、「もしあれば少しだけ暮らしが豊かに感じる」「あったらなんとなく面白い・楽しい」というような、程度に関わらずポジティブな印象のものを作ることにしました。
今すぐ何かの役に立つ作品ではありませんが、上記のような「不特定多数を対象に、より豊かな体験を提案する」ことも、芸術であるとした上で制作をはじめました。
苦手なデザイン
以前から傾向として、発進時のアイデア・企画が面白くても、訴求力のあるアウトプットに至れないことがありました。これは企画を詰める段階で時間をかけすぎて納期が短くなり、そこから逆算でものづくりをはじめるため「納期に収まる程度のスケール」になることが原因でした。また、アウトプットがソフトウェア内だけ(もしくは出力のみ)で完結するように作る傾向があり、モノとしての強度を持った「立体物」の制作に抵抗を持っていました。
そこであえて今回は苦手な立体物で表現することと、それを得意なグラフィックデザインで魅せることに挑戦しました。
マージン管理
また、今回の制作では特にスケジュールに余裕をもって完成させることを決めました。具体的には展示2週間前に完成させて、その後は各種告知や撮影にあてる予定でした。結果的には、2週間前に一旦完成できたのですが、印刷物のリテイクや一部の作品が本当に必要かどうかテストする時間にあてられることになりました。意図的に作った時間的猶予はブラッシュアップの作業で使い切ってしまいましたが、これも制作時間の管理をしていなければできなかったことなので助かりました。
また、前述のように、どうしてもPCの中だけではアウトプットの状態が見えてこないので、「作品を作る→レビューする→作り直す」という流れを頻繁に繰り返しました。先述したような十分なマージンを取ることで解決できる類の問題は起こりうるので、常に意識をしながら、解決にあてるための時間を捻出する必要があると再認識しました。
展示し続ける
「完成形の状態を常に見える状態にしておく。更新したら素早く見せてレビューを受ける」ことも、今回の制作で意識していました。
自分は完成形の前の作品を魅せるのは恥ずかしいと思っていました(思っています)が、それでも、恥ずかしくない最終型にするために、人目に付く場所に常に展示して制作を続けました。
実機を常に最終形態で展示し続けていたので、いつも最新の状態で使用者の反応を見ることができました。私の展示は体験型なので、怪我や故障を避けるためにも、更新が入る度に日々様々な人にご協力いただいて、テストを繰り返す必要がありました。
やはりやってみないとわからなかったことはたくさんあり、作品のクオリティに如実に現れるようなブラッシュアップ案は、結果的にこの施策から多く得られました。
ユーザーのこえ
100枚のおみやげと、33枚のあしあと
10日間の展示期間中の朝と夜に作品のメンテナンスをしていたのですが、展示会場に行く度に、設置していた試筆用紙や持ち帰り用のポストカードが使われているのが確認できて嬉しかったです。実際に全体の会期を通してA3の試筆用紙は合計33枚分が使われており、お持ち帰り用のポストカードも100枚ほど設置した分が全て無くなっていました。
スタッフをしている時などはありがたいことに、筆記をお試しされている場面に何度か遭遇できました。そうやって自分の作ったものが社会性を帯びていく様というか、誰かに使われて、そして体験を届けられたということが非常に有意義だったなぁと思うし、何より面白く感じました。
自分の作品を受けて、何も知らない一般来場者はどういう動き方をするのか。触るのか触らないのか、危険な場面は無かったか、男性の動き女性の動き、どのインクが多く使われて、それで何を書いたのか… 全てが新鮮で面白く、興味深い体験でした。同様にご来場いただいた皆さまにもそのような体験を届けられたのならば幸いです。
オンラインのみなさま
大変ありがたいことに、インターネット上でも本作品に関する感想が観測できたので、以下にその一部を引用させていただきます。
パントーン! pic.twitter.com/8RD0IMDdPv
— うさこ (@usakororin) 2017年2月26日
パンで思い出したけど京造でいろんなパンでインク作った卒制あったけどあれよかったな。名前もパントーンって名前なのが更によかった。
— ryokuca (@ryokuca) 2017年2月28日
情報デザイン学科の展示見てきましたー(*´ω`*)
— 🌼ジェイウェイド部長 (@ATrBdbook1226) 2017年3月3日
とても甘い匂いのするインクがありましたよ!素材はパンです! pic.twitter.com/ihMj4AUujw
卒展6日目、情デと総合造形みてすきだったやつ勝手に載せます パンでインク作る発想が新しすぎて、新しすぎて🍞 pic.twitter.com/V9UZ2CgqXj
— いーぬまちゃん (@1_numama) 2017年3月2日
卒展最終日の今日(もう昨日)、「シスターコンプレックスシンドローム」という舞台を立誠小で観て、卒展に行って回れていなかった現美と情デを見た。情デの、パントーンというパンでインクを作った作品の試し書きの紙に「たつや」と書いてあったのが印象的で、そのことばかり頭に残った。
— 仲西 森奈 (@mement_morina) 2017年3月5日
京都造形大の卒展でパンがインクになってるから、パンで書いたり画いたり描いたりしたい人はGOGO~♪なんと色んなパンがある。
— うたうたにん (@utautanin) 2017年3月4日
オフラインのみなさま
それでは最後に、ご来場いただいた皆さまが試筆用紙に残された文・イラストを載せていきます。
宮崎出身の方からコメントいただいた #pantone_log
国際色マシマシでお届けしております #pantone_log
全33枚。お試しいただいた皆さま、ありがとうございました。 #pantone_log
制作にご協力いただいた皆さま、ご観覧いただいた皆さま、ありがとうございました。