紫色が好きです

紫色が好きです

上を見なくなった街

明日京都を引っ越す。  

謝恩会の帰り道にじわじわと強まるその自覚は、少しだけ視線を上げるきっかけになった。  

人は思ったよりも下か水平を向いて歩いている。越してきたばかりの日は、とにかく我が家の灯台なるものを探すべく視線をあっちこっちしていたのに、今はもう携帯を触りながら下を向いて歩けるし、音楽を聴きながらぼうっと歩いていても迷ったりしない。  

それが今や、明日引っ越しとなった途端に「京都」を集めようと躍起になっていた。わざわざ遠回りして帰ったり、横断歩道の真ん中で遠くを眺めたりしたけれど、夜になった街はぜんぜんはっきり見えなかった。  

どうにか感覚のログを残したいと思ったぼくは、ボイスメモで録音しながらゆっくりと歩いて帰ることにした。人の会話やバスの音、たまに喋ったりして、そうやって空気感を持ち帰れたらなと思った。  

ある程度しんみりはしたけれど、それでもまだぼくは京都に来たいと思っている。でも今は、上を見なくなった街を忘れないために考えたり思ったりしながら明日越す部屋に帰っていった。