パンからインクをつくるまで
こんにちは。紫です。
さて、表題の件ですが、今回は以前のエントリーの補足説明として「あのインクを具体的にどうやって作ったのか」について記述します。
やはり上記のようなご質問をいただく事が多かったため、せっかくなので残しておくことにしました。ご覧いただければわかると思うのですが、工程の全体的な特徴として 面倒だけれど難しくない という感じなので、頑張ればご家庭で再現できるかと思います。
それではやっていきます。
原材料について
今回使用した各種パンは、流通している市販品のほかに、個人経営の所謂パン屋さんで仕入れたものの2種類があります。
理由としては主に保存料のほかに、砂糖やジャムなどの甘味料が入っていることで、一部のパンでは焼く工程に影響が出てしまうためです。
トースト
- 市販品を使用。使用するのは1枚分。ホテルブレッドとかじゃなくていいです。
バゲット(フランスパン)
- パン屋さんで購入。一本丸々買いましたが1/8くらいしか使いません。余ったら日持ちしないので食べましょう。
メロンパン
- パン屋さんで購入。市販品は表面のザラメ多すぎてダメでした。だいたい半分使うので、もう半分は食べましょう。
クロワッサン
- パン屋さんで購入。市販品は砂糖が手にベタつくくらいしっとりしててダメでした。これは丸々1個使うので食べないで下さい。
- ミニクロワッサンとかなら3個くらいな気がするけど、トースターで面積取るので面倒そう。
イングリッシュマフィン
- 市販品使いました。焼くときは半分に割りますが、使うのは丸1個分です。
ジャムパン(パン)
- 市販品です。安くて助かる。ただし使うのはパンの部分だけなので、ジャムは食べる等しましょう。
- ジャムパンのジャムはある程度凝固しており、増粘剤などを含むため、上手く火が通りませんでした。
ジャム
- ジャムです。単品で買います。トースターに広がる面積分使いました。大さじで5~7杯くらいだったかなぁ…(適当)
とりあえずこれらが材料になります。次に必要な機材について紹介します。
使うもの
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- パンを焼くのに使います。ここで残念なお知らせですが、1台潰す覚悟になります。これからもトーストしたい方は安いのを用意するか、別の手段を考えましょう。
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- 強烈な焦げの匂いを外に逃がすのに使います。扇風機でも代用できますが、首が縦に動かないとトースターに当たらないかもですね。
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- 粉の保存に使います。最低1種類あたり2枚ずつ使うので、ジャムの分を入れて14枚以上はあるといいですね。ちなみにぼくは安い類似品を使ったところ破れました。
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- 物騒ですね。焼いたパンを粉砕するのに使います。もしかしたらミキサーとかでもいいのかもしれません。後述しますが、実はあんまり使いませんでした。
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- ハンマーで砕いた塊を、粉にするのに使います。地味にすり棒が小さいので、手が大きいひとは指が疲れると思います。がんばってください。
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- 粉から原液を抽出するのに使います。要領はコーヒーと変わらないので、フィルターも用意しましょう。
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- 量の調整に使います。50mlと30mlが確認できれば大丈夫ですが、あまり小さいとドリッパーが乗らないので、普通のご家庭サイズもあるとよいです。
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- 原液を蒸発させるのに使います。普段使いのもので大丈夫です。まぁパン焼いてるだけなので。
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- インクの保存につかいます。コレ入れないと最速2週間でカビ生えます。若干トラウマ。
メインで必要なものはこれくらいでしょうか。あとまぁ紙コップとかインク入れる瓶とかは各自お好みという感じで。
作業環境
さて、肝心の作り方ですが、ひたすら泥臭くやっていきます。
さっそく出鼻をくじくようでアレですが、作るにあたって環境条件があります。というより困ることですかね。
トースターは外で使う
- 「焦げ」の匂いは相当な範囲に、強烈に襲いかかります。屋内の2階で焼いてたら1階玄関先まで匂いが届いたそうです。
音が出てもいい場所、時間でやる
- まずトースターの「チン♪」が5分おきに1回鳴ります。これが6セット、を7回やります。そしてハンマーの音がドンドン…はうるさかったので、結局諦めて手でどうにか砕きました。
やっぱり室内も換気&リセッシュ
- 原液を蒸発させる工程でキッチンまわりになんともいえない失敗したカラメルみたいな匂いがします。換気扇や空気清浄機、リセッシュで耐えましょう。
で、これらを踏まえて最終的にどうなったかというと、
「カーテンと窓を空けて、ベランダでトースターを使ってパンを焼き、真っ暗なリビングでそれを叩いて砕いて粉にし、それをキッチンで換気扇回しながらドリップ&加熱蒸発」という狂気のワークスタイルに落ち着きました。野外から室内に持ち込まれるに連れて、徐々に完成していく様が面白いですね。
順に解説していくと、カーテンを空けたのは匂いを染み付かせないようにしたため。窓を空けているのはサーキュレーターを使っているため。真っ暗なのは深夜0時にカーテンが使えないため。という理由です。季節は真冬の12月。しんどかった…
つくりかた
さて、ようやく作り方のフェーズまで来ました。といっても既に全体像は見えているので、ここではさらっと作業と注意事項だけを記載していきます。
トースターで5分パンを焼きます。焼けたらフタを空けてサーキュレーターなどで5分冷まします。
これを6セット繰り返し、計1時間(加熱30分・冷却30分)の作業になります。
- 一気に焼かないのは、発火の恐れ、トースターの耐久性、焦げを強く出すため、などの理由があります。
焼けたらすばやくZiplockに入れ、熱い内にハンマーで砕きます。焦げの採取を優先して、もっちり砕けないところは放置します。
- 特にイングリッシュマフィンなどは、もちもちしていて表面しか砕けません。したがって、焦げていない部分は業を背負って処分します。
Ziplock内部にたまった焦げの塊を、乳鉢にいれてすり潰します。
- 結構硬いです。根気強く、繊細にやっていきます。ここでどれだけ細かくできたかによっても、インク濃度に影響します。
粉をフィルターに入れて、ドリッパーを計量カップに載せてセットしたら、沸騰したお湯で50ml分になるまで抽出します。
- 自分はコーヒーを入れる時のように30秒ほどの蒸らしを入れましたが、影響してるかはわかりません…
できた原液50mlを、フライパンで加熱し、30mlになるまで水分を蒸発させます。
- 水分を飛ばすことで、粉の含有量の比率を上げて、より濃いインクを作ります。
最後に保存瓶などに移して、防腐剤を適量垂らし、冷蔵庫で冷却保存します。
- 30mlの場合だと、1適と少しだったと思いますが、心配だったので2適入れました。この時点で口に入れると危険なものになります。注意しましょう。
これにてひとまず完成です。基本的には冷蔵保存をしていますが、防腐剤や加熱していることから常温でも大丈夫になった可能性があります。自分は安定を取って冷蔵保存していました。
さて、「ひとまず」とした件ですが、前述したように「ジャムパン」のみ少々特殊な工程を行っています。簡単に言うと「ジャムとパンをそれぞれ焼いて、ドリップする段階で一緒に混ぜる」だけなんですが、ちょっと補足して説明します。
ジャムをアルミホイルに広げて伸ばし、トースターで同様に加熱→冷却する。(パン部分も上記のように焦がすが、トースターの面積的に分割して作業することになる。)
出来上がった名状しがたい黒化物質を粉砕し、粉にする。(パン部分も同様に粉にする。)
- ジャムを30分焼くと、見たことのないダークマターが観測できます。これまでの素材の中で最も強烈な匂いがするうえに、一部の結晶がすこぶる硬い強敵。
激臭のするカラメルをなんとかすり潰して粉にしたら、パンの粉と7:3(ジャム:パン)くらいの比率であわせて、ひとつの粉にします。
- ジャムを多めにすることで、クリームパンやあんパン等のラインナップと差別化し、ジャムっぽさを強調します。
あとの工程は前述の5から同様にやっていきます。
これにてようやく完成です。パンからインクをつくるまで、たかだか30mlの成果物ですが、異常なコストパフォーマンスの悪さと、トースターという尊い犠牲を要して完成に至りました。
ただ、インクというモノを作るだけならこれで終わりなのですが、実際は展示を行っていますので、展示台やグラフィックの制作なども含めると自分はもう少しアレコレやっておりました。まぁそういうのも含めて、よりリアルなメイキングを残しておくことにも意味があると信じて、こうして書くことにしました。
なんの参考になるかはわかりませんが、もし同様に「何かしらから色を抽出する」ことを探している人のために、この広いインターネットに置いておこうと思います。もしやるとしたら大変だと思いますが、頑張ってください。なにか面白いものが出来上がると良いですね。